岸朝子さんの食事に関するコラムサンクスデイズ・スタイルでは、さまざまなジャンルの達人たちが団塊世代の毎日をさらに輝かせるヒントをコラム形式でご紹介します。

岸朝子・食コラム|サンクスデイズ・プラチナ

永遠の感謝を、プラチナに刻んで

Thanks Days Style:岸 朝子 食生活ジャーナリスト

ふたりで過ごす時間が長くなるほど、「食」の楽しみは重要な要素。食べるだけでなく、一緒につくる、発見する楽しみ方も提案します。

第3回 日本の食卓と家庭の味

50年以上、日本の食の現実について、現場から記者の視点で見続けた岸さん。岸さんが料理記者となった昭和30年代は、日本の食が欧米化し、インスタント食品、ファーストフードなどが登場してきた時期と重なります。そこで、日本の家庭の味の変遷と、家庭の味の大切さについてお伺いします。

バランスを考えながら作るのが家庭の味
家族が健康で楽しく毎日を過ごすための「食」は大切です。そのための「食」のありかたを教えてください。

いつも言っていますが「命は食にあり」です。命を維持するのは食です。その基盤は家庭にあります。その食卓は昭和40年代ごろから大きく変わりました。それはお惣菜屋やインスタント食品を手軽に買えるようになった時期と重なります。それに伴って、肥満に悩まされる人が増えていきます。買ってきたもの、他人任せにしてしまった食事では、「昨日、野菜が足りなかったから、今日は食べよう」といったバランスを自分で算段できなくなってしまうんですね。このバランスを考えながら自分で按配するのが「家庭の食」です。

子どもは親の姿を見て食べることを学ぶ
手軽に出来合いのものを食べられるようになってから、40年以上の歳月が流れましたが、そこで変わったことはなんでしょうか?
仕事場で記事のチェックをする岸さん。80歳を越して現役の編集者であり記者なのだ。
仕事場で記事のチェックをする岸さん。
80歳を越して現役の編集者であり記者なのだ。

お母さんやお父さんが料理をしている姿、工程を見て、子どもは味、調理法を覚えます。
例えばじゃが芋の芽には「ソラニン」という毒がありますから、昔から芽をとって調理をしてきました。でも、今では芽を取ることを知らない子どもが増えています。それは、親が調理をする姿を見ていないからなんです。
私も戦後、32歳まで自営業をしながら主婦をしていました。その後、編集者、料理記者と多忙な日々を過ごすようになった後も、朝出勤するときに夜のおかずまで作ってから出ていました。ですから、子どもは私の味を覚えて、子ども自身で料理ができるようになった後も、味やバランスを考えた食事が作れるようになりました。そして、その家の趣向にあわせたその家庭オリジナルの料理というものが、昔はどこの家にもありました。
今、料理をしない親が増えているという現実があります。買ってきた総菜やインスタント食品で育った子どもは料理の仕方がわかりませんし、家庭オリジナル料理というものもありません。料理は「人間の資格」ですから、ぜひ、家庭で料理を作ってほしいと思います。

食について学ぶことが法律で定められる時代に…
日本の家庭の食卓が空洞化し、最近「食育」が叫ばれるようになりました。

2005年に食育法が制定され、食べ物の栄養や知識だけでなく、日本の食習慣や食文化まで幅広く教育することになりました。法律で食べ物の大切さを訴えなければいけない時代は歴史上初めてのことで、私自身は複雑な気持ちです。毎日の食事を大切にすることは、当たり前のことです。
聞いた話ですが、食育は大切だから、子どもには一流レストランでしか食事をさせないという親がいるといいます。ある程度大人になれば、マナーや雰囲気などを覚える機会になりますが、まだ小学生の子どもを一流レストランに連れて行っても、あまり身にならないのではないのでしょうか?それよりもお母さんが作った料理の味を、しっかりと舌にすりこんでおいたほうが、子どものためになると思います。
さらに、スーパーや惣菜売り場で、幼稚園児くらいの子どもに「何を食べたい?」と聞いている光景も見かけます。親は食育のつもりで子どもに聞いているのかもしれませんが、それは違います。「家庭の食=命」を預かるのは親です。家族が何をどれだけ食べればいいか考えるのは親の仕事。親が毎日の食事を通して、「命を育む食」を実践し、その味、料理を身につけていくのが本当の「食育」ではないのでしょうか。

食材選びで味は変わる!
料理が得意でなかったかった人が、料理をおいしく作るのはなかなか大変だと思いますが、岸さんの考える、料理のコツを教えてください。

やはり、しっかりした食材を使うことです。この間、5本で150円のナスと3本で200円のナスがお店にありました。ナスひとつひとつの見た目は同じなんです。そこで店員に「これどう違うの?」と聞いたら、「産地が違います」とひとこと。そこで両方買って帰って、食べ比べてみたら、高いほうのナスのほうがおいしかったんですね。高いものがすべていいとは思いませんが、いい素材を選ぶことが大切だと思います。
まず、栄養のバランスを考えること。自分で一から料理を作ることが難しくても、インスタントラーメンを作るとき、そのまま作って食べるのではなく、野菜やお肉を入れる。買ってきたお惣菜にさっと茹でた野菜を添えるだけでもバランスがとれます。たった1〜2分の手間で、バランスがとれるだけでなく、おいしくなるのです。こういった工夫をすることも、料理のコツですよ。

まずは作ってみることから、全てが始まる
料理が作れないお母さんが増えていると聞きます。またリタイア後、料理を作ったことがないけれど、料理をしてみたい人など「料理初心者」にアドバイスをください。
二男の家族との夕食。こうして集まり食事をするのも岸さんの楽しみの一つ。
二男の家族との夕食。こうして集まり食事をする
のも岸さんの楽しみの一つ。

1品でもいいから、自分の手で料理を作ってみることです。お米を洗って炊飯器に入れるだけでもいいし、米を研ぐのが面倒だったら無洗米もあります。簡単な味噌汁、野菜を塩でもんだだけの漬物、卵焼き程度でいいんです。とにかくなんでもいいから作ってみることが大切です。家族に自分の手でおいしいものを食べさせたいという心は、自分自身を豊かにします。
一番望ましいのは、作ったものを家族で食べること。「食育」とともにひとりで食事をする「孤食」、家族がそれぞれ買ってきたものをばらばらに食べる「個食」という言葉が注目されています。子どもは塾で、親は仕事…それぞれ事情はあるでしょうが、せめて1週間に1回だけでも、家族揃って食事をする時間をもってほしいと願います。

次回からは松岡真理さんにバトンタッチ。3回にわたって健康や医療について語っていただきます。

食と命の密接な関わりを知ったら、次なる興味は健康へ。健康や医療を専門とするライター・松岡真理さんに、熟年世代の「健康」について語っていただきます。世界の最新データから日常に密着した健康管理まで網羅します。
第3回へ

岸 朝子 Profile

料理記者歴53年。フジテレビ系列「料理の鉄人」の審査員としても脚光を浴び、適格な批評と「おいしゅうございます」の名ぜりふが評判となる。食べ歩き、器の楽しみ、お取り寄せなど、様々な食を楽しむブームの仕掛け人である。

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