Thanks Days Style:岸 朝子 食生活ジャーナリスト
ふたりで過ごす時間が長くなるほど、「食」の楽しみは重要な要素。食べるだけでなく、一緒につくる、発見する楽しみ方も提案します。
第1回 夫婦で楽しく生きるには食事が大切

会社員時代の岸さん
32歳から料理記者としてのキャリアをスタートし、50年以上最前線で活躍している岸朝子さん。現在は書籍、雑誌の制作のほかに講演活動も行い、充実した毎日を過ごしています。料理の審査をする番組の「おいしゅうございます」で、その名は全国に知れ渡りました。それ以前からも、料理の世界ではわかりやすい記事と、的確な評論で、多くの支持を得ており、担当した雑誌や本はとてもよく売れたと伝説になるほど。そんな岸さんのプライベートは、4人の子どもの母であり、夫や家族を大切にする女性。家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねてきた岸さんの人生について伺いました。
食はいのち、おいしく食べて健康長寿
よく「食はいのち」とおっしゃいますが、食の大切さについて教えてください。
「講演などさせていただいたときに“食はいのち、おいしく食べて健康長寿”と必ず申し上げます。その意味を考える前に、“日常茶飯事”という言葉を考えてみてください。これは“当たり前のこと”という意味で使われていますが、当たり前だからこそ気を配らなくてはいけません。これをみなさん見落としがちです。つまり、朝、昼、晩の3回の御飯と、そしてお茶(お水)が人間の健康を作る最大のファクターなんです。裏を返せば、食事をしっかりとって、水分補給をすれば、いつまでも健康で長生きできるということなんです」
1日1食でも、やはり自分で作って食べることが大切
では、具体的にどのようなものを食べればいいのでしょうか? 岸さんおススメの食生活を教えてください。

ダッチオーブン
「好きなものを食べ、それを食べ過ぎないようにして、バランスを考えた食生活をおくることです。これは言うは易しですが、行うは難し! 私自身、お酒が大好きでよくいただきますので、ストイックなことは言いません。でも、バランスのよい食生活になるコツがあります。肉、魚などのたんぱく質、穀物、野菜、果物など『6つの栄養素』といわれるものを“今日、足りないものはないかな……”と常に頭の中で意識しておくと、おのずと不足したものを食べるようになります。そのためには、1日1食でも、やはり自分で作って食べることが大切。今、肥満に悩む人や、体調不良を抱えている人が多いのは、バランスを意識し、自分で食事を作って食べないことも原因のひとつだと思います。だって自分で作っていれば“昨日はお肉を食べすぎたから、今日は控えて野菜を多めに食べよう”とか意識しますよね。あと、調理道具も大切。ミネラル、鉄分は不足しがちな栄養素ですが、鉄なべを使えば少なくとも鉄不足は解消に導けます。貧血に悩む女性の多くは鉄不足と聴いたことがあります。調理道具を鉄なべや鉄瓶に変えただけで、健康長寿の道が開けるんですよ」
“勉強しないで家事ばかりしてたわ”なんて言われます
岸さんご自身は、仕事をしながら家族の食事をどのように世話されていたのですか?
「私は仕事をしながら子育てをしていましたので、朝、出かけるときに夜のぶんを作って仕事に出ていました。でも、長女が小学校高学年になったら、もう彼女に任せっぱなし。そのときすでに彼女はおひたし、味噌汁、御飯の炊き方などマスターしていました。今でも“勉強しないで家事ばかりしてたわ”なんて言われます(笑)。人間は動物の仲間ですから、親が食べ物の作り方を教えると、自然に子どもに伝わっていくものなんだな……と思いました。そして、その作り方は大切な財産になるんですね。ですからうちの子どもたちは、男女問わず全員料理が好きみたいですね」
“お袋の味”は“かみさんの味”になってしまったんです
愛情表現、親子の絆を深めるのに、料理はとても重要なんですね
「その家庭の味というのは、夫の実家、妻の実家のものを合わせて、夫婦で創造したものなんです。結婚したばかりの頃、自分の実家の味に慣れ、妻に“この味噌汁の味、ちょっと変わっているね”なんて言っていた夫が、結婚1年も経たないうちに、帰省したときに“おふくろの味噌汁の味が変わった”って言ったという話をよく聞きます。つまり、“お袋の味”は“かみさんの味”になってしまったんです。このことからわかるように、味は“慣れ”でもあるんですね。その家庭にはそれぞれの味があり、それを食べて家族の絆は深まっていくのです。最近、増えてきたとはいえ、男性が料理をする機会はまだまだ少ない。時には妻に料理を作ってみるのも、立派な愛情表現だと思いますよ」
だんなさんが料理をするなら、妻は黙って見守ることが大切
今まで料理をしなかった人が、料理を始めるってとてもハードルが高いと思ってしまいますが、カンタンにできる方法はありますか?
「もし、だんなさんが料理をするなら、妻は黙って見守ることが大切です。せっかく起こったやる気の芽を“そうじゃないわよ”なんていらぬアドバイスをして摘んでしまうのはもったいない!(笑)。そして、男性の料理サークルなどに参加して腕を磨き、妻や家族を喜ばせるのも楽しいですよ。女性には使いこなすのが難しい、大きな鉄の鍋でシチューや丸焼きを作って家族で食べる喜びは何ものにも勝るんじゃないかしら」
夫婦の時間ができた今だからこそ
夫婦の雰囲気を変えるためにも料理が一役買ってくれるんですね。
「料理はとてもクリエイティブなものです。男性が料理に慣れてきたら夫婦で嗜好を相談しながら、夫主導で作ってみてください。テレビを消して、お互い笑いあえるような会話を交わして、ダンナの作った料理を楽しむ……夫婦も30年、40年と一緒にいると空気みたいな存在になってしまいますが、こうして料理をして、会話をして、食事を楽しむ時間があれば、新たなお互いのよい面が見えてくるはずです。子どもが独立し、夫婦の時間ができた今だからこそ、ふたりの時間を楽しんでいただきたいですね」
次回は岸さんの人生のターニングポイントと食についてお届けします。
ご主人と、家族に支えられて仕事をしてきた岸さんは、金婚式の時にご主人から指輪をプレゼントされました。
第2回へ
岸 朝子 Profile
料理記者歴53年。フジテレビ系列「料理の鉄人」の審査員としても脚光を浴び、適格な批評と「おいしゅうございます」の名ぜりふが評判となる。食べ歩き、器の楽しみ、お取り寄せなど、様々な食を楽しむブームの仕掛け人である。