Thanks Days Style:勝谷誠彦 コラムニスト・写真家・コメンテーター
長い時間をともに過ごし、人生のパートナーとしてともに歩んできた夫婦。だからこそ、同じ目線、視点で旅を楽しみたい…。そんな旅の楽しみ方を、コラムニスト・勝谷誠彦さんが紹介します
第2回 古典よ再び! 旅を深める書物とは…
旅の達人である“闘うコラムニスト”勝谷誠彦さん。ジャーナリストとして、世界中を取材し、歴史が始まる瞬間、終わる瞬間に立ち会ってきました。そんな勝谷さんが、熟年世代の「旅」にお薦めするのは「古典」。古典から始まる「歴史を楽しむ旅」について伺いました。
共通言語の「古典」を旅に取り入れる
前回、世界地図から始まる旅についてお伺いしましたが、知的好奇心を満たしながら旅を始める具体的な方法を教えてください。
団塊、ポスト団塊世代は、教養深い人が多いと感じます。学生時代が終わっても、なおかつ知的好奇心の枝葉を広げている人が多くいます。そこのベースにあるものは何かと考えると、やはり学校教育で徹底的に古典を学んだからだと思います。ここ20年くらい、理系の大学に進学するものは、古典や歴史を学ばずともよいという「ゆとり教育」です。しかし、熟年世代が育ってきたのは、それとは正反対の教育環境です。文系、理系問わず、古典や歴史が教育カリキュラムに組み込まれ、それらを身につけないと進級できないハードな教育システムでした。古典の丸暗記や、歴代総理大臣の名前など「何の意味があるんだろう…」と思いながら暗記した経験をお持ちだと思います。ですから、その“ハードな教育環境で得た知識”を旅に取り入れてください。それは、熟年世代の共通言語というべき「古典」から始まる旅です。
イスラエルで人類の歴史を感じる
古典といっても、多くのジャンル、書物がありますが、お薦めを教えてください。
やはり、人類最大の古典というべき「聖書」ですね。あらゆる思想に影響を与え、何千年も読み継がれている聖書は、古典の中の古典。人の喜びも悲しみもすべての要素が盛り込まれている本です。学生運動が巻き起こった時代に多感な時期を過ごした団塊、ポスト団塊世代は、資本主義、社会主義などあらゆる思想を肌身で感じた世代でもあります。そして、それらの思想を深く考えた経験をお持ちの人も多い。そこで、思想の大本である聖書の舞台となった場所・イスラエルに行ってみるといいでしょう。イスラエルというと、日本にいるととても遠い国のように感じ、正確な位置を把握していない人も多いでしょう。でも、行こうと思えば簡単に行ける国なんですよ。そして、行ってみると、人類の歴史の重みに圧倒され、深い感動を得られるはずです。ソドムとゴモラの街、マサダ砦、嘆きの壁、キリストが十字架を背負って歩いたヴィア・ドロローサなどあり、実際にその場所に立つことができます。これらの場所には、今もなお多くの巡礼者が訪れています。イスラエルは紛争の舞台ですから、治安管理が日本の比にならないくらいしっかりしている。国民の一人一人が命がけで国土と治安を守っている様子が伝わってきます。平和ボケしてしまった日本人に、戦争、平和、生きることの意味を考えさせてくれるはずです。また、古典や歴史の舞台であるだけでなく、理科の教科書や地図帳に紹介されていた死海もイスラエルにあります。少年・少女時代に「塩分濃度が高いと浮くんだ」と好奇心を刺激されたあの写真の体験ができますよ。
行きの飛行機では、黙々と読書…
聖書以外にも、古典の舞台ですばらしい場所はどこですか?

あとは、神話の舞台のギリシャです。パルテノン神殿や、コロシアムなど今まで何回も写真で見てきた場所に、現実に立ってみると、湧き上がるような感動に震えるはずです。そういう感動を得るのも、知識があってこそ。イスラエルに行くときは新旧の「聖書」を、ギリシャに行くときは、「ギリシャ神話」を夫婦1冊ずつ買って、行きの飛行機の中で読んでください。機内サービスの映画やゲームをパスして、黙々と読書。本を読めば眠くなるはずですから、機内でなかなか寝付けない苦しさからも開放されるかもしれません(笑)。古典に限らず、夫婦で好きな作品の舞台に旅することは、すばらしいことだと思います。熟年世代が青春時代に影響を受けた作品でパッと思いつくのは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のオーストリア、小説『嵐が丘』の舞台のイギリスなどですが、どんな作品であれ“当時は憧れるだけで行けなかった場所”に立つと、ただ感動するだけでなく、自分の人生についても考えることにつながります。映画は家で見てから出発し、本はそこに行く飛行機の中で黙々と名作を読み返してください。若い頃と違った感動、ものの見方を発見するのも再読の楽しみです。
知識を通じて、心を通じ合わせる
今、リーズナブルで手軽に行けるアジア旅行が人気ですが、アジアを舞台にした作品はなかなか思いつきません。行くならその場所が舞台の名作を味わいたいのですが…
ここ十数年、女性を中心に人気のベトナムは、多くの作品の舞台になっています。例えば、映画化されて話題になった小説『愛人/ラマン』は、まさにフランス領インドシナ時代のベトナムが舞台。そして、成瀬巳喜男監督が映画化した、林芙美子の小説『浮雲』は、『愛人/ラマン』からすこし下った時代のベトナムがちょっとした舞台になっています。異なる視点から描かれたこの2作品を読んでベトナムに行くと、歴史をただ知るだけでなく、食べ物の特異性の理由などがわかります。ベトナムは、コーヒー、パン、洋菓子などが他のアジア諸国とは一味違います。それは1887年から1954年までフランス領だったころの影響なんですね。小説のいいところは、登場人物に自分を投影して疑似体験できること。フランス領時代のベトナムを小説であらかじめ体験してから行くと、ちょっとした食べ物はもちろん、建物ひとつ見ても感動が違うでしょう。どこに行くにしても、その国を舞台にした作品を読んでから入国すると、旅の楽しさは倍増しますよ。そして、同じ作品を読んで、同じものを見れば、心が深いところで通じ合うと思います。もしかしたら、30年ぶりにもう一度、プロポーズしてしまうかもしれません(笑)。
究極の旅は、何もしないこと
旅をとことん楽しむ「心構え」があれば、お聞かせください。

旅は、日常の中にありながら、日常とは離れたところにあります。ですから、“日常と離れている”ことを味わうには、あえて何もしないことも旅の楽しさだと思います。旅に出ると「せっかくだからここにも行こう、あれも食べよう、あれを買おう」と欲張ってしまいがちですが、そういうことをまったく忘れて、何もしないことも旅の贅沢であり、楽しみでしょうね。何もしないでビーチにいるとか、ホテルで1日何もしないでくつろぐというのは、時間に追われた日常を過ごす私達にとって、大きな喜びです。旅で教養を体験、吸収したらそれを熟成させる時間を持つ。それが大人の旅の余裕であり、喜びだと思います。
旅で美味しい物に出会うコツは、海と山の両方を見よ!
海外だけでなく、日本国内の隅々まで取材した勝谷さん。酒蔵、鉄道、土地の名物などあらゆる「旅の醍醐味」を経験した視点から、とっておきの国内旅行を教えていただきます。
勝谷 誠彦 Profile
コラムニスト、写真家、コメンテーター。兵庫県尼崎市出身。早稲田大学第一文学部卒業後、文藝春秋に入社。週刊文春、文藝春秋の記者を経てフリーランスに。旅行、グルメ、歴史、政治など多くのジャンルに造詣が深く、著書も多数。近著は『偽装国家 日本を覆う利権談合共産主義』、『彼岸まで』などがある。